2010年03月26日

中国の競争力の主眼点4

中国の競争力の主眼点は昨日で終わったが、今日はそのコメントから始める。さらに次のテーマは先日積み残したギリシャの情報に関した論文を翻訳する。今日は昨日までの中国の競争力に対する私のコメントだけだ。ちょっと長いが、相当ユニークなので注意して読んでほしい。こうした意見は他にはない。6月の北京講演である「日中グローバリゼーション」の核の部分だ。

昨日の論文の最後に、「中国の急成長の結果,今いろいろでて来ている課題を解決することが優先されるかもしれない。」と言っていた。「そのためには成長一辺倒でなく,調和のとれた社会の構築に向かうのではないか。」と言っているが,それが今の政府の方針である。政府の効率性が高いのはそこにあるのかもしれない。北京オリンピックの時に不動産バブルを沈静化し、株価を安定化させ、今回の世界不況に於いても中国の景気を回復の方向に持って行ったし、今年の上海万博と同時に起こった不動産バブルもきっと問題なく治めてしまうのだろう。

こうしたことに対する政府の果たす役割は我々の多くは看過しているが、きわめて大きい。ここの国の人口を考えただけでも、この国の政府の管理能力は計り知れないほど大きいと言うことを我々は認識しなければならない。かって毛沢東が中国はミニ国連だと言ったが、近いうちに、この国は世界の経済の半分を動かすようになる。そうなるとこの国の政治力が世界の経済をリードする以上に操作することも可能だと言うことを忘れてはならない。我々はこの国の国力と歴史をきちんと分析した上で、そうした認識を持たなければならない。

そうした意味で,今後の産業構造の変革も政府主導で、進んで行くだろうが,人口の過半を占める三農問題への取り組みは長年の課題であり,この貧富の格差は急激には縮まらない。農村部の社会保険制度と教育問題、出稼ぎ労働者の問題は時間のかかりそうな課題だ。そこには中国の国内にアフリカと同じ後進国が存在するからだ。中国自身に南北問題が内在している。

この背景も我々は注意深く歴史を検証しなければならない。中国を毛沢東が1949年に建国したのはこうした問題を解決したいからだった。ユートピアの建設がその目的であった。だから、人民公社が出来、国有企業が出来た。資本主義諸国のように、企業の存在目的が自らの採算を考慮して、社会に貢献して行くと言う考えではなかった。誰もが楽しく、一生そこで生活が出来る社会の構築だった。

それが共産社会であったが、大躍進で失敗してしまったのは周知のとおりだ。終身雇用も死ぬまで雇用が保障され、社会保険制度、教育制度もその趣旨で、構築されていた。それが1979年に始まった新たな改革はこうした制度を崩壊させ、資本主義国へと変貌して行った。そのお陰で、今の中国があるのだが、この建国の趣旨はこうした背景があった。であるから、中国政府はこの三農問題も含めて、社会保険制度と教育制度の再構築はなおざりにはできない。こうした背景を知っている長老はまだか数多くいる。

また欧米の企業はこの中国の収賄を問題とするだろうが, 地方政府と地方企業の癒着は無くならない。これは中国独特の文化だ。その社会に外国企業が入って行くしか方法は無い。と言うことは日本人がこうした社会の慣習とか文化を体得すると言うことは不可能だから、その文化のインターフェースを企業の中に取り込まなければならない。

そういうとどこの経営者もそうしていると言われるが、私が言っているのはそう言う意味ではない。インターフェース自体の取り方に問題がある。もっと、日本企業が中国の中に入るべきと言うか、グローバルな視点と言うか、今の鎖国的な見方を直さなければならないと言うことだ。

企業が採用している中国人は2つの意味でそう言うことができない状態になっている。一つは日本企業は中国人を重用しない。そんなことはないと言う企業が多いだろうが、実際、重用していない。たとえば、北京とか、上海で中国人に総経理を任せていると言う話を良く聞くが、そういう中国人は日本の企業に20年以上も勤務しているから、いわば日本人だ。もはや、彼らは中国人ではない。

ましてや、中国本土で採用した中国人を日本企業の各国のトップに持って行こうと言う方針を持った企業は一社もない。これは企業トップの問題ではなく、日本企業の構造がそうした人材を採用する構造にないからだ。以前、私の会社は上海で人材コンサルティングビジネスをしていたが、日本企業の本社が中国人を重用する気持ちがないのを知って廃業したことがあった。日本企業の現地の董事長がいくらその気になって、中国人を育成しても、現地だけではどうにもならない。

インタフェースの日本側のレベルがもっと中国側によるべきだと言っている。日本の組織の中に完璧に入って来ている中国人しか幹部候補として受け入れない今の日本では優秀な中国人の確保のパイが相当限定されてしまっている。そのため、中国市場開拓の人材がそれでなくても足りない状況の中にあって、ますますそれを不可能にしている。そのためには日本人がもっと中国の社会の中に入って行く必要がある。

ただ、一方ではいくら日本人がその中に入って行っても、日本人は中国人のようなネゴシエーションのスキルを身につけることはできない。生まれたときからの教育環境が違うからだ。私の中国人の家族は子供がもの心がつくころから、36計を徹底して教育する。中国の社会で生きて行くための術だ。こうした技術を日本人が身につけることは不可能だ。しかしながら、コミュニケーションスキルは可能だ。ここで私が言ってきているグローバルな日本人の育成だ。

36計:
『秘法三十六計』はいつの時代に成立したものかはわかっていない。確かなのは『南斉書』王敬則伝にある三十六計走ぐるを 上計とすの一文だけで,後世こじつけの形で編纂されたものではないかとの見方が強い。http://www1.interq.or.jp/~t-shiro/data/etc/36kei.html

これを知らない日本人が多いが、中国人なら誰でも知っている。私も30年以上知っているが、この36計を自ら利用する能力はない。中国人はこうした36計を小さいときから親が徹底的に教育しているので、これらを駆使して利用することができる。昔はそうしないと、違う地域に行ったときには殺されてしまう危険があったからだ。よく、日本人は中国人は嘘つきだと言うが、嘘つきかもしれないが、日本人が言うような「嘘も方便」と言う考えに近い。日常の世界に深く入り込んでいるから、そうしたことを知らない日本人が悪いと言うことになる。

もう一つは日本企業自体のグローバルマインドの醸成だ。それは日本人社員全体が(国民が)鎖国状態になっているので、その精神構造の変革が必要だと言うことだ。これは大変なことだが、もうそろそろ日本人も外を向いて生きて行く必要がある。典型的な事例は日本のアフガニスタンでの行動だ。英語圏から見ていると、極めて不自然な行動だ。フランスのサルコジにしても、イタリアのベルルスコーニにしても、日本政府の行動はけっして理解出来ないだろう。

彼らはアメリカの軍事行動に賛成している訳ではない。アフガニスタンで勝とうと思っている訳ではない。いわば、50ヶ国も参戦しているから、その付き合いでしかない。だから、アフガニスタンで戦争をしているのはアメリカだけだ。この付き合いに日本が入ってこないと言うことはアンフェアとしか言いようがない。湾岸戦争のときに140億ドルもの巨額の支援をして、世界の顰蹙をかった記憶は未だ忘れない。今度も50億ドルをアフガニスタンに投資して、警察官の教育をしようとしているが、タリバンもそこにはいる訳だが、また、世界の顰蹙を買いそうだ。いわば日本は世界のKY国だ。

そうした世界に目を向けた人材にして行かなければならない。そうしなければ、中国人を理解出来る人材だけを育成して、今度はその日本人とグローバル化していない大半の社員との間に摩擦が起こってしまう。私が長崎の出島を作って日本の本社のグローバル化を図るために、中国人を利用しているのはそのためだ。

ここでもう一つ問題がある。中国人をどこの企業でも数多く採用しているが、その中国人はこうした企業のグローバル化の一助になるかと言うとならない。中国は特殊な国で、もともと国家が様々な文化、人種の集合体だから、彼らは郷に入ったら郷に従うことが徹底している。日本企業に入ったとたんに日本人になり切ろうとする教育を受けているので、日本人に「表面的に」同化してしまう。だから、日本人に対して中国人の良さを主張する中国人は決していない。また、中国人は日本に同化することは決してない。アメリカに移住した中国人を見れば一目瞭然だ。100年経っても、彼らは中国の伝統と文化を維持している。

こうした表面的にも同化しない中国人を日本企業の「出島」につれて来て、日本人のグローバル化を図らなければならないと私は思っている。そうはいっても日本企業はもう50年も経営計画の中で、グローバル化を謳って来ているが、せいぜい、部長レベルが英語が話せるぐらいまでしか出来ていない。となると、大きなことを言っても日本の社会とか企業は変化出来ない。

私は10年かけて、日本人の「あうん」以心伝心の曖昧な仕事の仕方をやめようと言うことだけを言って来ている。日本以外の世界では仕事はすべて、ギブ・アンド・テイクだ。もらったお金の対価として仕事をする。勿論、企業に対するロイヤリティとかチームワークは当然あるが、日本人はサービス精神が旺盛な反面、時間にルーズで、だらだらと仕事をしてしまう文化がある。これはなおさなければ、世界に勝てない。一様に30%の効率が悪い。これは私の商売で、BPOを推進しているがそのためだ。

いっぽうで、都市部の大きな課題として環境汚染があり、この課題は先進諸国が通って来た同じ課題だ。そうした意味で,中国は先進国に倣うことが出来る。中国のもう一つの最大の課題はソフトウェアであり,専門知識と技術の育成である。そのための専門的な人材の育成が必要である。管理職の人材も極端に不足しているが、急激に国家が成長したために、人材がそれについて来ていない。ソフトウェアは目に見えないだけに、まだまだこれからだろう。日本もかってはそうだった。

10年で大学生が10倍になったが、彼らが就職出来る市場が十分にない一方で、上級のスキルを持った人材が極端に少ない。今度はスキルのない単純労働者は今後職が減って行くことになる。今は景気回復のためにこうした単純労働者を道路、鉄道に投入しているがそのうちに余って来るとなると、また社会問題になってくる。上級のスキルを持つ人材は教育して行くしかない。かっての文化大革命と同じで、1966-1976年の教育の空白で、その後の中国の成長に大きな支障を来したが、現在は今までの社会主義では存在しなかった、企業経営者とその幹部候補生の育成だ。

中国の国際競争力は政府の政策に依存していることが大きい。今まで,中国は1978年以来,毎年8%以上の経済成長をして来たが,1990年代に於ける社会主義国から資本主義国への変革は政府主導でこなしてきた。日本が高度成長を遂げて来た背景とは全く違う。また、2000年以降、WTO加盟後の対内直接投資はアメリカに次ぐ、自由度を持っている。日本はそうした意味では自由度が全くないと言っていいくらいの保守環境が出来上がってしまっている。だから、海外からの対内直接投資がない。勿論アメリカの兵器産業が日本に輸出出来ないと言うような障害もまだ多々ある。トヨタの問題の原因の一つだ。アメリカの箱もの産業はもうこの軍事産業しかない。

今後の課題としては人権問題をどう扱って行くかグーグルのような外国投資との摩擦も含めて、政府が情報統制をどう運営してくか、が大きな課題として残っている。

ただ、人権問題について、新疆とチベットの問題は中国の地政学的な歴史観があり、欧米人がいろいろ問題視して来ているが,中国政府がそうした視点の解決は好まない。歴史的に漢民族を守って来たのはこうした周辺の異民族だからだ。中国を地政学的に守って来たのはヒマラヤとかタクラマカン砂漠の地勢ではない。こうした異民族が人の盾となって、夷敵の障壁になって漢民族を守って来た歴史がある。だから過去の歴史同様に、これからもこうしたジオポリテックスは変わらない。

情報統制の問題についてはこうしてインターネットが普及し,ますます情報が開示されて行くと,どこまで,政府がその情報統制が可能かは疑問であり,グーグルが撤退でもしたら,この分野に於ける産業の後退に繋がってしまう。まさか中国政府が「百度」がそれを補完出来るとは思っていないはずだ。グーグルとはその規模もレベルも桁が違う。

百度(バイドゥ、Bǎidù)は中華人民共和国のBaidu, Inc.が運営する検索エンジンである。創業は2000年1月。本社は北京市にある。全世界の検索エンジン市場において、BaiduはGoogleに続き第2位のシェアを誇る(米comScore社、2009年8月調べ)。中国国内では、 Google(谷歌)を押さえて最大のシェアを誇る。ja.wikipedia.org/wiki/百度

中国政府が先ほども経済の景気を左右するほどの力を持っていると言ったが、政権維持に対する感度は極めて大きい。この情報統制も人権問題とあわせて、その一環だ。しかしながら、先の人権問題とこの情報統制とは時代環境が全く違う。2005年5月から反日運動はなくなってしまった。インターネットで政府主導で反日活動を先導出来なくなってしまったからだ。それほどまでに、情報伝播の影響が大きいからだ。携帯 電話は8億台を超えている。8億人への情報伝播は3時間もあれば十分だ。

このままで、中国政府が情報統制を継続すると言うことは実質的にはもう限界に来ているはずで、数千人規模による「金の盾」も限界に来ているはずだ。この携帯メールはもう統制出来ない。検索できるとすればグーグルのG-mailしかない。

反政府運動に対する政府の対応は年10万件の暴動とあわせて,この分野での抜本的な政策変更が必要かもしれない。日本の安全保障と同様で,中国も独立後,50年経って,こうした統制は抜本的に見直す時期に来ている。YouTubeとか Bloggerが禁止することの損失の方が大きくなって来ている。

最後に,中国は民主主義国家ではないが,それ以上に、地方政府の歴史を考えると,大衆と役人との関係はこうした主義以上の価値観の世界があり,収賄とかの制度を含めて,それが良いかどうかの判断以前の問題として、この国の文化であり,変化することは出来ない部分ではないだろうか。1949年に農奴解放をして,平等の社会になったと言うが,歴史観からすると,そう簡単には平等にはなれずにいるのが現状で,現在のような役人が管理する社会の方がこの国情にあっていると思う。一般大衆も後進国の一般大衆と先進国の人々とは全く違った人種であることもこの国の特徴だ。このことは今後の大きな課題でもある。そうした意味からすると、先進国の一般大衆は自由主義国の人々と変わらないが、国の大半を占める大衆が発展途上国、後進国の人間であることを忘れてはならない。

以上で中国のグローバリゼーションに私の議論は時間の関係もあってここで終了するが、思いの外、長文になってしまった。この国の発展はこうした様々なひずみと齟齬を伴いながら、猛烈な勢いで、進展し、かつ歴史的な経緯があって、変更出来ない文化もある。また、この国は自由主義国ではないが、世界の経済を主導出来るまでに国力が巨大化して来た。われわれは彼らの戦略とその環境を十分に把握した上で、日本のかれている停滞した立場を十分に斟酌し、これからの10年の日本のグローバル化に向けての施策をきちんと考えて行く必要がある。


次はギリシャの情報のところで,参照としてあげた「Invisible」を翻訳する。これはReserch Institute for European and American Studies ヨーロッパ並びにアメリカ研究の研究機関(RIEAS)が2009年8月17日に発行したものだ。この論文は前回のギリシャの論文に引用 しているところがあるが、ここでは全文を翻訳する。



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海野 恵一
1948年1月14日生

学歴:東京大学経済学部卒業

スウィングバイ株式会社
代表取締役社長

アクセンチュア株式会社代表取締役(2001-2002)
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海野塾のイベントはFacebookのTeamSwingbyを参照ください。 またスウィングバイは以下のところに引っ越しました。 スウィングバイ株式会社 〒108-0023 東京都港区芝浦4丁目2−22東京ベイビュウ803号 Tel: 080-9558-4352 Fax: 03-3452-6690 E-mail: clyde.unno@swingby.jp Facebook: https://www.facebook.com/clyde.unno 海野塾: https://www.facebook.com TeamSwingby
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