2008年12月29日
「会計制度・税制の不備および運用の不透明性」
「会計制度・税制の不備および運用の不透明性」が今日のテーマだが、その中から、増値税と移転価格について話をしよう。連日こうしたテーマばかりなので、読者が辟易している事は想像に難くない。札幌の河関さんが言ったように、読む方も苦行に近いかも知れない。本来であれば、今日のテーマは中国に関与する経理部長しか読まない。私のここでの意図は私自身がこうした専門家でもないし、読者もこうした専門家ではない人を対象にしている。様々な角度から中国が如何に泥臭くグローバルに活動しているかを示したいがためにこうして書いている。是非そこのところを理解してほしい。説明も出来る限り、平易に書いているつもりだ。まずは言葉の定義から。
増値税
中国内で物品の販売、輸入、加工、修理を行う企業に対して課税されるもので、94年から導入された。税率は17%(農産物など一部は13%)となっている。増値税の計算は、販売税額から仕入税額を控除する。輸出を行う外資系企業は当初、原材料の仕入税額分について還付を受けることができることになっていた。(中日金網)
移転価格税制
企業が海外の関連企業との取引価格(移転価格)を通常の価格と異なる金額に設定すれば、一方の利益を他方に移転することが可能となる。移転価格税制は、このような海外の関連企業との間の取引を通じた所得の海外移転を防止するため、移転価格を、通常の取引価格(独立企業間価格)を用いて所得を計算し、課税する制度。(財務省)
この2つの制度が最も不備で、不透明だ。マブチモーター大連の元総経理だった大熊さんは以前、この増値税が何時還付されるのかわからないと嘆いていた。製品を輸出する場合にはこの税金が還付されるからだが、なかなか還付されない。2006年6月頃当時のソニーの中国総代表だった高篠董事長に移転価格の件で何度か打ち合わせをしたことがあったが、移転価格の設定はかなり恣意性があるので、各国の税務との調整が大変だと言っていた。移転価格はこの中国に限った事ではないが、この2点が一番不透明のようだ。我が社はこうした問題に対して得威の郭偉董事長と提携していろいろな税務のサポートをしている。
特に税務は細則が日本のように完備していないので、属人的に判断されているようだ。しかも、中国にいる日本企業は他の欧米の外資と相談しないので、徴税で、日本企業だけがターゲットになり易いといつも言っていた。それに日本人はお上に弱い。郭偉さんは自分の所有の接待所と宿泊施設をもっている。私の毎月行っているGLT大連研修で、そこの場所を利用している。日本の税務と違い、中国の税務はこうした恣意性が高いので、外部から遮断されたこうした場所が会議に必要なのかも知れない。
さて増値税だが中日金網によると「この税をめぐってはいろいろとトラブルが多く、本来満額返ってくるはずの還付税率が95年に14%と変更され、96年には9%にまで引き下げられた。さらに97年からは輸出額の8%に課税するという、輸出企業にとってより大きな負担を求める内容に変わってきている。これは還付制度を悪用する企業があって、一時は納付税額よりも還付請求額の方が多かったということが起こったための措置のようだ。
増値税の取り扱いは、地域によって相当異なっている。華南地域の一部では最初から徴収そのものを行わないところがあるようだが、還付がなされていないケースはかなり多いようだ。97年の最新の方式に関しては、上海市や隣接する浙江省、江蘇省で税務局が新方式での納税申告を通達したが、実際の納税状況は地域や企業によって様々だ。企業にとって納税・還付の有無は採算に大きく影響してくるだけに、運用基準の明確化が望まれるところだ。」
と2000年の記事に書いてあったが、今でも変わりなく、増値税の税率が頻繁に変わり、還付率も変更になり、不正還付問題と輸出増大に伴う還付負担のよる恒常的な財源不足を招いているようだ。さらに還付税率調整が人民元の切り上げ圧力と絡んで、そこに政策が入り込んで来ている。
「この増値税は全税収の5割を占めており、中国ではそのほかの営業税、消費税といった間接税もあわせると全税収の7割になる。日本の税体系は所得税が中心で、法人税、所得税と言った直接税が全税収の6割になっており、中国と対照的だ。中国では、企業所得税、外国企業等所得税の割合が低くなっている(合計で14%程度)が、特に外国企業等が納付した企業所得税は全税収の3%余りとなっている。この外国企業等の税収割合が低いことは、外資導入を進める政策として外国企業等に対して各種の優遇税制が設置されていることが主な理由の一つであると言われている。そして、そのことが外国企業に対する優遇税制見直しや企業所得税と外国企業等所得税の統一の動きにつながっているわけだ。
また、世界の多くの国で税収の柱の一つとなっている個人所得税の割合が、中国では今のところ著しく小さいものとなっている(7%)。ここ数年、個人所得税の税収は急速に増加しているものの依然として税収に占める割合は小さい状況だ。そのため、今後、個人所得税が制度上も執行上も注目を集めることになる。なお、日本では、所得税と言えば個人所得税を指すが、中国をはじめ多くの国では所得税は個人所得税と法人所得税(日本では法人税)を合わせた意味として理解されている。」(中国日本商会 2003年)
以前にも話をしたが、日本企業と違って、中国企業は利益を正確に申告している企業は殆どいない。だから、こうして、間接税である増値税が税の中心になって来ている。輸出をすれば、税金が還付されたり、減額されたりするが、その還付も遅延が累積したりしている。この遅延も恒常的な財源不足が原因だと言うし、また、不正還付が後を絶たないようだ。日本では到底考えられない状況だ。
さて、移転価格の話を今度はしよう。この増値税とは異なり、移転価格は2国間の国際2重課税の問題がある。この移転価格は日本から中国に輸出する時に中国の子会社を支援するために安い価格で輸出すれば日本の国税から脱税だと言われてしまう。逆に中国の子会社から日本の本社に安い価格で、輸出をすれば、今度は中国の国税から、脱税だといわれてしまう。まずは事例から見てみよう。
「ここ数年、日本の大手企業が税務当局から移転価格税制に伴う追徴課税を受けるケースが続いている。2005年度に追徴課税が100件を超え、指摘された申告漏れ総額は2836億円に達した(日本経済新聞調べ)。これは、法人に対する申告漏れ総額の20%にも相当する、と言われる。
2008年4月には、ホンダが中国の4輪事業に係る合弁企業との取引に関係し、2006年3月期までの5年分の取引について、総額1400億円もの申告漏れを指摘された。これによる追徴課税額は800億円近いとされている。この金額は、2006年に武田薬品工業が追徴課税された570億円を上回り、決定すれば日本企業で史上最高額となる。」(日経 NB Online 2008年7月28日)
この事例は日本の国税からの追徴にケースだが、先ほどのソニーの話のように中国から日本に安く輸出する場合には今度は中国の国家税務総局が課税してくる。
「中国国家税務総局から調査を受けた企業は、1991年から10年間に8000社を超え、その大半が所得更正を受け入れている。 国・地域別に見ると、日系、台湾系、香港系企業の割合が高く、なかでも日系企業が追徴課税されるケースが多く、欧米企業は少ない。 日系企業の課税が多い理由は、多くの日系企業は権限を本社に集中し、関連者間の取引価格を親会社が決める。そのため親会社が意図的に所得移転を行っているとの印象を与えやすい。中国の移転価格税制による追徴課税は、件数は多いが1件当たりの平均課税所得額は約1,000万円である。」
(2006年2月のジェトロの通商弘報 一部抜粋)
日本の国税庁は中国国家税務総局と二国間事前確認提携をしているので、日中両国の税務当局から認可を受ける制度で、認可されれば移転価格調査を受けなくてすむ事になるが、この移転価格制度は未整備かつ不透明と言えそうだ。2006年の後半に移転価格に関して税務当局からの一斉調査があると言う情報を入手したことがあるが、それが半年以上延期になった。その理由は領収証の虚偽発行脱税事件の調査で、300人以上の調査官がその事件にかり出されたので、移転価格の調査が延びたとの事であった。中国ではこうした領収証の虚偽発行脱税事件も頻繁にあるようだ。
中国国家税務総局ホームペーシにはそうした記事が出ているようだが、中国人はともかく金を払いたくないと言う価値観がある。また、お上に対する対応は日本人とは全く違い、従順ではない。例外はなぜかわからないが、大連は政府も含めて従順のようだ。大連が日本びいきだからと言うわけでのないと思うが、中央政府に対しても従順だ。脱税について少し引用したい。
日本:5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(脱税額が500万円超の場合は、その相当額)又はその併科
中国:脱税行為、増値税専用伝票に関する不正、税務執行の妨害等に対しては、脱税額及び行為の悪質度合に応じて罰金及び懲役刑等、重い刑罰が適用される。特に、増値税専用伝票の偽造やそれに伴う不正還付については、国家財産の横領行為そのものであり、納税者自身の納税額を隠匿する脱税より一層重い犯罪として考えられているようであり、厳しい刑罰が規定されている。そして国家に与える損害が重大である場合には、死刑、無期懲役刑も規定されている。ちなみに、第一財経日報の報道(06.5.8)によると、94年以降現在までに200人余りに対して死刑判決が出され、このうち100人余りに対して死刑が執行されているとされている。
(中国日本商会 伏見俊行教授)
昨日も書いたように、中国では死刑が多いようだが、この脱税でも死刑が適用だれているようだ。ここまでするのは一向にこうした脱税が横行しているからだ。一方では中国には31の省・自治区・特別市を始め、市、県、郷 鎮、村というさまざまなレベルの地方政府がある事を忘れてはならない。家族閥だけでなく、こうした地域閥もある。こうした脱税には様々な組織と人が絡んでくる。
また、こうした死刑を逃れるために様々なところから様々な賄賂が飛び交うことになる。それで、地獄の沙汰も金次第と言うことになってしまうから不思議だ。こう言う事も日本では考えられない。捕まりそうになったら、即座に香港に逃げると言う事をどこかの電機メーカーの人に聞いたことがあるが、本当だ。捕まってしまうとどうなるかわからない。何人日本人が捕まっているかもわからないのが現状だ。そう言う点では中国は自由主義国とは違う。
わかり易い例はこうした下位レベルの地方政府が土地を開発する。もともと土地は農民から買い上げたものだからタダみたいなものだ。それが工業団地に化ける。そうなると取引単価が1000倍になる。2,3年もするとさらに数倍に跳ね上がる。それを払い下げる時に半値で払い下げても、値段の動きが激しいので、何が不正かが見破れない。売る方も買う方もそれがわかっている。
私はそう言う売買に関与した事がないが、相当の頻度で行われているが、何が不正か、何処までが不正かはきわめて把握しにくい。勿論そうした統計もあるわけがない。今の地価自体がいくらなのかも正確には把握できない。先日、札幌に言った時に河関さんがご尊父の遺産相続で大変な思いをしたと言う話を聞いた。1993年のバブルの崩壊で、その前後の不動産価格の暴落と路線価が連動しないために納税価格と売却価格がとんでもなく乖離していたからだ。税務署はとんでもなく高い路線価で遺産相続税を計算してくるが、地価がもうすでに暴落しているので、そんな値段ではすでに売れない。
まさしく、今の中国がそうだ。政府が評価する不動産価格と実勢は地域、日時によってとんでもなく乖離しているに違いない。だから、何が正しいかわからない。そこで取引をする人たちが金に聡くなるのは当然かも知れない。これが中国だ。還暦で、すべてが保守的な日本では理解できない世界だ。でもそれが躍動するアジアの世界だ。日本こそが例外だ。日本株価が暴落したと言っても、この1年の中国の株価の暴落は数倍も変動幅が大きい。いろんな人がいろんな理由をあげているが、その本質は確定できない変数が日本より多いことだ。その変数自体も、時間軸、地域軸とは別に人々の思惑が絡んで、相互に関連性をもたずに動いて行くから変動幅がでかくなってしまうのだろう。
明日は「偽ブランド品の商標登録問題」。知的財産権保護の問題については以前も取り上げたが、この問題は深いので、数日間のテーマとして取り上げたい。
増値税
中国内で物品の販売、輸入、加工、修理を行う企業に対して課税されるもので、94年から導入された。税率は17%(農産物など一部は13%)となっている。増値税の計算は、販売税額から仕入税額を控除する。輸出を行う外資系企業は当初、原材料の仕入税額分について還付を受けることができることになっていた。(中日金網)
移転価格税制
企業が海外の関連企業との取引価格(移転価格)を通常の価格と異なる金額に設定すれば、一方の利益を他方に移転することが可能となる。移転価格税制は、このような海外の関連企業との間の取引を通じた所得の海外移転を防止するため、移転価格を、通常の取引価格(独立企業間価格)を用いて所得を計算し、課税する制度。(財務省)
この2つの制度が最も不備で、不透明だ。マブチモーター大連の元総経理だった大熊さんは以前、この増値税が何時還付されるのかわからないと嘆いていた。製品を輸出する場合にはこの税金が還付されるからだが、なかなか還付されない。2006年6月頃当時のソニーの中国総代表だった高篠董事長に移転価格の件で何度か打ち合わせをしたことがあったが、移転価格の設定はかなり恣意性があるので、各国の税務との調整が大変だと言っていた。移転価格はこの中国に限った事ではないが、この2点が一番不透明のようだ。我が社はこうした問題に対して得威の郭偉董事長と提携していろいろな税務のサポートをしている。
特に税務は細則が日本のように完備していないので、属人的に判断されているようだ。しかも、中国にいる日本企業は他の欧米の外資と相談しないので、徴税で、日本企業だけがターゲットになり易いといつも言っていた。それに日本人はお上に弱い。郭偉さんは自分の所有の接待所と宿泊施設をもっている。私の毎月行っているGLT大連研修で、そこの場所を利用している。日本の税務と違い、中国の税務はこうした恣意性が高いので、外部から遮断されたこうした場所が会議に必要なのかも知れない。
さて増値税だが中日金網によると「この税をめぐってはいろいろとトラブルが多く、本来満額返ってくるはずの還付税率が95年に14%と変更され、96年には9%にまで引き下げられた。さらに97年からは輸出額の8%に課税するという、輸出企業にとってより大きな負担を求める内容に変わってきている。これは還付制度を悪用する企業があって、一時は納付税額よりも還付請求額の方が多かったということが起こったための措置のようだ。
増値税の取り扱いは、地域によって相当異なっている。華南地域の一部では最初から徴収そのものを行わないところがあるようだが、還付がなされていないケースはかなり多いようだ。97年の最新の方式に関しては、上海市や隣接する浙江省、江蘇省で税務局が新方式での納税申告を通達したが、実際の納税状況は地域や企業によって様々だ。企業にとって納税・還付の有無は採算に大きく影響してくるだけに、運用基準の明確化が望まれるところだ。」
と2000年の記事に書いてあったが、今でも変わりなく、増値税の税率が頻繁に変わり、還付率も変更になり、不正還付問題と輸出増大に伴う還付負担のよる恒常的な財源不足を招いているようだ。さらに還付税率調整が人民元の切り上げ圧力と絡んで、そこに政策が入り込んで来ている。
「この増値税は全税収の5割を占めており、中国ではそのほかの営業税、消費税といった間接税もあわせると全税収の7割になる。日本の税体系は所得税が中心で、法人税、所得税と言った直接税が全税収の6割になっており、中国と対照的だ。中国では、企業所得税、外国企業等所得税の割合が低くなっている(合計で14%程度)が、特に外国企業等が納付した企業所得税は全税収の3%余りとなっている。この外国企業等の税収割合が低いことは、外資導入を進める政策として外国企業等に対して各種の優遇税制が設置されていることが主な理由の一つであると言われている。そして、そのことが外国企業に対する優遇税制見直しや企業所得税と外国企業等所得税の統一の動きにつながっているわけだ。
また、世界の多くの国で税収の柱の一つとなっている個人所得税の割合が、中国では今のところ著しく小さいものとなっている(7%)。ここ数年、個人所得税の税収は急速に増加しているものの依然として税収に占める割合は小さい状況だ。そのため、今後、個人所得税が制度上も執行上も注目を集めることになる。なお、日本では、所得税と言えば個人所得税を指すが、中国をはじめ多くの国では所得税は個人所得税と法人所得税(日本では法人税)を合わせた意味として理解されている。」(中国日本商会 2003年)
以前にも話をしたが、日本企業と違って、中国企業は利益を正確に申告している企業は殆どいない。だから、こうして、間接税である増値税が税の中心になって来ている。輸出をすれば、税金が還付されたり、減額されたりするが、その還付も遅延が累積したりしている。この遅延も恒常的な財源不足が原因だと言うし、また、不正還付が後を絶たないようだ。日本では到底考えられない状況だ。
さて、移転価格の話を今度はしよう。この増値税とは異なり、移転価格は2国間の国際2重課税の問題がある。この移転価格は日本から中国に輸出する時に中国の子会社を支援するために安い価格で輸出すれば日本の国税から脱税だと言われてしまう。逆に中国の子会社から日本の本社に安い価格で、輸出をすれば、今度は中国の国税から、脱税だといわれてしまう。まずは事例から見てみよう。
「ここ数年、日本の大手企業が税務当局から移転価格税制に伴う追徴課税を受けるケースが続いている。2005年度に追徴課税が100件を超え、指摘された申告漏れ総額は2836億円に達した(日本経済新聞調べ)。これは、法人に対する申告漏れ総額の20%にも相当する、と言われる。
2008年4月には、ホンダが中国の4輪事業に係る合弁企業との取引に関係し、2006年3月期までの5年分の取引について、総額1400億円もの申告漏れを指摘された。これによる追徴課税額は800億円近いとされている。この金額は、2006年に武田薬品工業が追徴課税された570億円を上回り、決定すれば日本企業で史上最高額となる。」(日経 NB Online 2008年7月28日)
この事例は日本の国税からの追徴にケースだが、先ほどのソニーの話のように中国から日本に安く輸出する場合には今度は中国の国家税務総局が課税してくる。
「中国国家税務総局から調査を受けた企業は、1991年から10年間に8000社を超え、その大半が所得更正を受け入れている。 国・地域別に見ると、日系、台湾系、香港系企業の割合が高く、なかでも日系企業が追徴課税されるケースが多く、欧米企業は少ない。 日系企業の課税が多い理由は、多くの日系企業は権限を本社に集中し、関連者間の取引価格を親会社が決める。そのため親会社が意図的に所得移転を行っているとの印象を与えやすい。中国の移転価格税制による追徴課税は、件数は多いが1件当たりの平均課税所得額は約1,000万円である。」
(2006年2月のジェトロの通商弘報 一部抜粋)
日本の国税庁は中国国家税務総局と二国間事前確認提携をしているので、日中両国の税務当局から認可を受ける制度で、認可されれば移転価格調査を受けなくてすむ事になるが、この移転価格制度は未整備かつ不透明と言えそうだ。2006年の後半に移転価格に関して税務当局からの一斉調査があると言う情報を入手したことがあるが、それが半年以上延期になった。その理由は領収証の虚偽発行脱税事件の調査で、300人以上の調査官がその事件にかり出されたので、移転価格の調査が延びたとの事であった。中国ではこうした領収証の虚偽発行脱税事件も頻繁にあるようだ。
中国国家税務総局ホームペーシにはそうした記事が出ているようだが、中国人はともかく金を払いたくないと言う価値観がある。また、お上に対する対応は日本人とは全く違い、従順ではない。例外はなぜかわからないが、大連は政府も含めて従順のようだ。大連が日本びいきだからと言うわけでのないと思うが、中央政府に対しても従順だ。脱税について少し引用したい。
日本:5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(脱税額が500万円超の場合は、その相当額)又はその併科
中国:脱税行為、増値税専用伝票に関する不正、税務執行の妨害等に対しては、脱税額及び行為の悪質度合に応じて罰金及び懲役刑等、重い刑罰が適用される。特に、増値税専用伝票の偽造やそれに伴う不正還付については、国家財産の横領行為そのものであり、納税者自身の納税額を隠匿する脱税より一層重い犯罪として考えられているようであり、厳しい刑罰が規定されている。そして国家に与える損害が重大である場合には、死刑、無期懲役刑も規定されている。ちなみに、第一財経日報の報道(06.5.8)によると、94年以降現在までに200人余りに対して死刑判決が出され、このうち100人余りに対して死刑が執行されているとされている。
(中国日本商会 伏見俊行教授)
昨日も書いたように、中国では死刑が多いようだが、この脱税でも死刑が適用だれているようだ。ここまでするのは一向にこうした脱税が横行しているからだ。一方では中国には31の省・自治区・特別市を始め、市、県、郷 鎮、村というさまざまなレベルの地方政府がある事を忘れてはならない。家族閥だけでなく、こうした地域閥もある。こうした脱税には様々な組織と人が絡んでくる。
また、こうした死刑を逃れるために様々なところから様々な賄賂が飛び交うことになる。それで、地獄の沙汰も金次第と言うことになってしまうから不思議だ。こう言う事も日本では考えられない。捕まりそうになったら、即座に香港に逃げると言う事をどこかの電機メーカーの人に聞いたことがあるが、本当だ。捕まってしまうとどうなるかわからない。何人日本人が捕まっているかもわからないのが現状だ。そう言う点では中国は自由主義国とは違う。
わかり易い例はこうした下位レベルの地方政府が土地を開発する。もともと土地は農民から買い上げたものだからタダみたいなものだ。それが工業団地に化ける。そうなると取引単価が1000倍になる。2,3年もするとさらに数倍に跳ね上がる。それを払い下げる時に半値で払い下げても、値段の動きが激しいので、何が不正かが見破れない。売る方も買う方もそれがわかっている。
私はそう言う売買に関与した事がないが、相当の頻度で行われているが、何が不正か、何処までが不正かはきわめて把握しにくい。勿論そうした統計もあるわけがない。今の地価自体がいくらなのかも正確には把握できない。先日、札幌に言った時に河関さんがご尊父の遺産相続で大変な思いをしたと言う話を聞いた。1993年のバブルの崩壊で、その前後の不動産価格の暴落と路線価が連動しないために納税価格と売却価格がとんでもなく乖離していたからだ。税務署はとんでもなく高い路線価で遺産相続税を計算してくるが、地価がもうすでに暴落しているので、そんな値段ではすでに売れない。
まさしく、今の中国がそうだ。政府が評価する不動産価格と実勢は地域、日時によってとんでもなく乖離しているに違いない。だから、何が正しいかわからない。そこで取引をする人たちが金に聡くなるのは当然かも知れない。これが中国だ。還暦で、すべてが保守的な日本では理解できない世界だ。でもそれが躍動するアジアの世界だ。日本こそが例外だ。日本株価が暴落したと言っても、この1年の中国の株価の暴落は数倍も変動幅が大きい。いろんな人がいろんな理由をあげているが、その本質は確定できない変数が日本より多いことだ。その変数自体も、時間軸、地域軸とは別に人々の思惑が絡んで、相互に関連性をもたずに動いて行くから変動幅がでかくなってしまうのだろう。
明日は「偽ブランド品の商標登録問題」。知的財産権保護の問題については以前も取り上げたが、この問題は深いので、数日間のテーマとして取り上げたい。