2008年12月28日

「恣意的な法制度の運用」

昨日はやっと大変なおもいをして札幌から戻った。今日は「恣意的な法制度の運用」なので、昨日から頭が固まっていた。シナリオをまとめるのは大変だ。実はいつも書きながら考えている。こうしたテーマが連日続くが、事前に整理ができないテーマだ。まずは明らかに恣意的だなあと言うところからはなしを始めよう。善し悪しは別にして、下記の引用は恣意的な法制度の運用としてはわかりやすい死刑執行の例だ。

「中国は死刑執行数を公表していないが、中国社会科学院法学研究所のLiu Renwen氏によれば、2005年の執行数はおよそ8,000人としている。またアムネスティ・インターナショナルは、2004年の執行数を少なくとも3,400人と推定、これは世界における死刑執行数の90%に相当するが、他の人権擁護団体はさらに多いと見ている。」「中央政府による犯罪撲滅運動など犯罪発生率の抑制を求める政治圧力の中で、地方裁判所は恣意的な判決を下す結果となっていると分析している。」(北京IPS=アントアネタ・ベツロヴァ、2006年3月30日)

「死刑は、暴力犯罪だけでなく、贈賄、売春の斡旋、横領、脱税、ガソリン強盗、有害食品の販売等の多様な犯罪に関わり、」「2001年7月6日、アムネスティ・インターナショナルが発表したところによると、中国は過去3ヶ月に1,781人を死刑にし、中国を除いた国々で過去3年間に執行された死刑の合計件数を上回った。」(ダライ・ラマ法王日本代表部事務所 2001年7月6日)

中国は人口が多いだけでなく、様々な人種、階層、文化が錯綜しているから、「逮捕された数万の容疑者、および告訴や裁判がないまま「労働による再教育」へ従事させられた数千の人々は、これらの集会で見世物になった。」というのはうなずける。正確な統計がわからないので何とも言えないが、そうしても犯罪が減少しないのだろう。その他に明確なのは今まで話して来た地方保護主義がある。引用が長いが下記に一例を示す。

「H社(外国企業)と厦門 D社(中国企業)は、合弁事業を営んでいたが、あるとき企業 の運営を巡って紛争が生じた。H社 は合弁契約の紛争処理条項に基づき、中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)に仲裁 の申し立てをした。H社の申立の内容は、合弁契約を終止し、法に基づき事業実施中の 債務の支払はすべきであること、また、債務支払を容易にするため、合弁契約において 被告D社が合弁企業資するとした工場建物の使用権を移転せよというものであっ た。CIETACは原告勝訴の仲裁判断をした。」

「 しかし、D社はこの仲裁判断を任意に履行しなかった。そこで、H社はD社の所在地で ある厦門市中級人民法院(人民法院は、裁判所のこと。以下、「法院」という。)に仲 裁判断の強制執行を申し立てた。この裁判で、被告は執行に対して異議申立をした。そ の申立の内容は、工場建物は20年前に野菜畑に誰かによって立てられたものであり、 不法な建物であり、被告は所有権を有していない。従って使用権の移転はできないとい うものであった。」

「法院は、CIETACの仲裁判断は正しくないと裁定した。その理由は、 CIETACは十分な証拠によっておらず、工場建物は合弁企業に出資し得ず、判断の承認 をしないというものであった。 この法院の裁定が公正であるかについて、はなはだ疑問である。D社は20年間もこの 土地を占有し、工場を建設し生産活動に従事している。この土地の使用料を土地管理局 に支払っていないのであろうか。この法院の裁定が出たあと、D社の当該土地の不法占 拠は解消されるのだろうか。依然として従来通り使用し続けるのではないだろうか。H 社とD社の合弁契約は対外経済貿易機関の認可を得たものであるが、D社に当初から詐 害行為があったことになる。法院は、地方企業を保護しようとしたのではないだろうか といった疑問が生じる。 」
(中国での事業におけるリーガル・リスク・マネージメントに関する調査報告書  国際協力銀行 中堅・中小企業支援室 2005年1月)

こうした話は収賄が絡んで、よく聞く話である。今まで話をして来たように、裁判官もこの地域の人だ。中国の信用の絆は家族閥が第一で、その次が地域閥だ。この地域に住んでいる以上はここで言うD社である厦門の会社を守ることになる。無茶苦茶な判決だが、裁判官も人の子だと言うことだ。それに反日感情が交じって来たらもっとひどくなってしまう。津上さんのブログから一つ有名な例を引用しよう。

「東芝のノートブックパソコンには、設計上の問題があり、メディア報道によれば、東芝は、米国のユーザーに対して10億ドルの賠償金を支払ったという。さらに「東芝は、米国のみに賠償金を支払い、中国のユーザーにはこれを行なわなかった。」とのことであるが、なぜ東芝は、中国のユーザーを侮辱するようなことをしたのだろうか。」(津上俊哉氏ブログ 2001年3月1日)

民族問題、歴史問題、中国の歴史教育などと絡み合って、2カ月間、政府調達からの同社製品のボイコット、8カ月間のメディアからのバッシングに遭った。 こう言う事も多々今まであった。「政冷経熱」といっても、そうはいかないのが現実だ。知的財産権問題も地方保護主義が絡むと問題が解決できなくなってしまう。重慶のヤマハ発動機が良い例だ。ヤマハ発動機は、中国の2輪車メーカー「天津港田集団」が作った模造品を巡る民事訴訟で2002年に勝訴しているが、長い時間がかかった。ホンダも同様だ。

このように話をしてくると中国はとんでもなくダメは法制度の国だと言うことになるが、そんなことはない。ダメなところは賄賂とか地方優先主義とか日中歴史問題とかはとかくこうした恣意性が入りやすい。また、明日の課題だが、税務のように日本企業はとりやすいので、日本企業だけを責めてくる事が多い。先ほどの判例はほとんど無茶苦茶だが、それに対抗するためには地域閥の人脈で対応するしか方法はない。日本人の弱いところだ。それではないフェアな判例を示そう。高速道路の騒音の判決を国際協力銀行の報告書から引用したい。

「2002年6月、北京市の豊台区に住む一人の小学校教師が、地域の交通騒音がひどく、正常な仕事、 生活ができず、かつ窓が開けられずに、ついには仕事を休む状態になったとして、北 京市首都公路発展有限公司に騒音から生じた損害の賠償、補償を求めた。要求内容 は、窓を2重にせよ、室内の騒音が昼間は60デシベル以下にし、夜間は45デシベル 以下にせよ、損害賠償3,000元を支払え、騒音被害に対して毎月60元を補償せよとい うものであった。

これに対して被告は、騒音公害は同社の責任ではないと主張した。この根拠は、高速 道路は国の交通計画に基づく重要な政策であり、計画および建設は合理的である。北京市の京石高速道路建設計画時の交通量は5,000台/時であるが、現時点でこの計画 の範囲内であったということである。
判 決 被告は、原告に損害賠償せよ。」

こうした判決には恣意性はない。行政の味方をしていない。北京は空気が汚いので、尚更環境問題に社会の関心が高い。環境汚染については昨日も述べたが、法制度においても、地方優先主義との葛藤はあるにしても、まともは判例は出ている。「人治」国家と言われるだけあって、一般大衆の眼はだんだん無視できなくなって来たと言えよう。

何処に恣意的なものが入ってくるのかをこの中国では企業、個人が見極める必要がある。法律の判断は司法に任せれば良いと言うのはこの国でなくても問題だ。経済法のところで「公正かつ自由」な取引と競争という理念といったが、判断するのはあくまでも裁判官で、彼も人の子だと言う事だ。どういう事かと言うと、ともすれば、「理念」ではなく、法律にそっているから、公正でなくても正しくない判決を下すと言う事もあり得ると言う事だ。

日本でもそう言うことはあるが、中国での違いを我々はここで理解してほしい。恣意的と言う事は裁判官が自分の意志で法制度を正しいか間違いかは別にして、利害を斟酌して、結論を左右すると言う事だ。その際の裁判官がたっている場所が中国の場合多岐にわたると言う事に他ならない。日本の場合にはそうした判断の場は一つしかない。地方裁判所と最高裁判所とは一つの社会からなっているし、法の目をくぐって悪いことをした人間に対して裁判官が公正でない判決をしても責められない。

この中国では中央政府と地方政府とは管轄が異なり、裁判官は異動がない。また、裁判官の判決のプロセスにおいて、日本のように法律が守られているかどうかと言うだけの要因で論理が構築されない。その要因が何かを裁判する被告、原告は十分に斟酌しなければならない。先ほど地方優先主義と言ったが、中国には31の省・自治区・特別市を始め、市、県、郷 鎮、村というさまざまなレベルの地方政府がある。日本の都道府県と違い、法の判断が統一されていない。言い換えれば、地域が変われば法も変わると言った方が正しい。国が変わると考えた方が正しい。国が変わっても変わらない環境問題のようなものは上記の例で示したようは判決が出るということだ。税法のようにまだ、細則が日本のようにないため、それぞれの税官吏に判断をゆだねているところも多々あるようだが、この話は明日にしよう。

明日は「会計制度・税制の不備および運用の不透明性」だが、これもまいったなあ。

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海野 恵一
1948年1月14日生

学歴:東京大学経済学部卒業

スウィングバイ株式会社
代表取締役社長

アクセンチュア株式会社代表取締役(2001-2002)
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海野塾のイベントはFacebookのTeamSwingbyを参照ください。 またスウィングバイは以下のところに引っ越しました。 スウィングバイ株式会社 〒108-0023 東京都港区芝浦4丁目2−22東京ベイビュウ803号 Tel: 080-9558-4352 Fax: 03-3452-6690 E-mail: clyde.unno@swingby.jp Facebook: https://www.facebook.com/clyde.unno 海野塾: https://www.facebook.com TeamSwingby
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