2008年12月25日

投資における「不透明な政策運営」

中国における投資リスクはその多くが「不透明な政策運営」にあると言われている.世界的なテクノロジー調査機関であるIDC (インターナショナル・データ・コーポレーション)社の国際事務部門上席副社長のフィリップ・ド・マルシラ氏は5月17日、「世紀先導科学技術トップフォーラム」で、中国とインドが過去数年間に高度な経済成長を遂げ、大量の資金投入で、未来における成長も評価する経済学者もいるが、両国の経済成長規模にはきわめて高い危険性を帯びているため、注意しなければならないと指摘した。(大紀元2005年5月20日)

こうした指摘が数多くあるが、その幾つかについて検討してみたい.最も不透明なものは汚職だろう.家族同士の金の授受は汚職にならない。しかしながら、同郷の場合には汚職だろう。汚職そのものが中国の伝統的な慣習だ.何千年と言うか有史以前からありそうだ.そう言うものは決してなくならないし、どう対処したら良いのかを検討するしかない.受け取るか受け取らないかもお互いの「信用」のレベルによる.「信頼」しあっていればお互いの秘密は決して漏れない.日本でも同じで、重要な面談は決してホテルのような公共の場では行わない.汚職でなくても勘ぐられてしまうからだ.これは日本でもインドでも同じだ。

国有企業を中心に非効率な投資が行われている.Dollar and Wei[2007]によれば、民間企業や 外資系企業に比較して、国有企業の投資収益率は低い。その背景には、制度的障害(労働や雇用に関する制限など)、賃金などのイ ンセンティブの欠如、ガバナンスの悪さ、資金調達の容易さなどがある。何らかの方法に より国有企業の投資収益率を民間企業並みに 改善することが出来れば、経済成長率を下げ ることなく投資率を6%下げられるという。 すなわち、国有企業改革や金融改革の推進が、 投資の抑制につながることになる。(環太平洋ビジネス情報 RIM 2007 Vol.7 No.27 )

政府による介入が多いために、金融部門が国民の貯蓄を有効に投資に転換させる役割を果たしていない為である。中国では資本市場の規模はまだ小さく、企業の資金調達は銀行に頼らざるを得ない。しかし、銀行部門の中枢になっている四大銀行は、融資先の大部分を占める国有企業と同様、コーポレートガバナンスが欠如したままとなっており、株主(抽象的存在としての「国家」)の利益を最大化するように行動しているわけではない。そもそも、貸出金利は、融資の対象となる国有企業を救済するために低水準に設定されており、資金の価格として資源を最も収益率の高いプロジェクトへと誘導する役割を果たしていない。また、融資の中から不良債権が発生しても、関係者が責任を取ることもほとんどない。(実事求是 2004年6月18日)

製造業の企業数は国有企業が8%ぐらいだが、資本ストックは依然として、32%もある。(Dollar and Wei[2007])国有企業は銀行融資を受けやすく、その生産性は民間企業より30%は低いと言う事だ.ただ、SINOPECとかChina Lifeのようは中国の経済を牽引しているのは上場しているとはいえ、いわゆる国有企業だ.であるから、国有企業すべてへの非効率な投資とは直裁的には言えない。また、中国の伝統的な地方優先主義もある。地方の企業を優先すると言う政府の政策だ.これには地方の人脈が絡んでくるから、それこそ不透明だ.

法律とか司法も不透明と言うか不公平なところが多々ある.ここには収賄も絡んでくる.以前のテーマで、「模造品」の話をした時にこうしたいくつかの問題を議論したように、不透明なところが一杯だ.クレヨンしんちゃんの商標権に代表されるように、中国で申請したものが中国の法律に合致しているから良いと言った事が今まで多々あった.勿論、日本でも法も目をかいくぐる悪いやつはいる。いま、我が社のビジネスで学校の裏サイトを撲滅しようとしているが、法律では取り締まれない.そぐに取り締まれば良いように思うが、なかなか出来ない.

交通事故などはさすがに人治国家だから、人がたくさん集まって来て、どっちが悪いと言ってくれる.法治国家の部分ではまだまだ不透明な部分がいっぱいある。ただ、日本の場合には裁判をする時にどっちが悪にかはっきりしている場合が多いが、中国の場合にはどっちが悪いのかわからないケースが多いのではないだろうか.訴えた人が悪いやつの時もあったが、こう言うのは統計のとりようがないから、実態はわからない。

だから、知的所有権については商標権のように、ヤマハ発動機が勝訴しているケースも多々出て来ているので、今後、こうした政府の政策ははっきりして行くだろう.しかしながら、直ぐにコピーされてしまうような音楽とかソフトウェアの保護には未だ相当の時間がかかりそうだ.以下のような江沢民の傑作な答弁もある.と言う事はこうしたコピーは当面なくならないと言う事だ.

かつて江沢民前国家主席がアメリカに訪問したとき、米国人記者に中国における知的財産権の侵害について質問されたことがある。これについて、江沢民前国家主席は「古代中 国において羅針盤、活版印刷術、製紙と火薬という4大発明がなされたが、欧米諸国はそ れを利用するにあたり著作権料を払ったのか」と聞き返した。近代的市場経済の基本的な ルールに則った答弁ではないが、途上国の立場を代弁したものとしてまったく無意味な答えではなかったように思われる。(中国の第11次5カ年計画に関する分析調査 経済産業省 2006年)

地方保護主義があり。WTO加盟後のグローバリゼーションの大きな阻害要因でもある.これについては明日のテーマであるので明日話そう.要は是非の判断の重要な要素として「地方」が優先されると言う事だ.その他に税関の輸出入のルールの不透明。外貨管理局等金融当局の為替政策.これについては2005年の1ドルあたり8.2元が現在6.8元まで、元高になって来ている.2005年の世界銀行の発表で購買力平価が1ドルあたり2.1元から3.4元に改められたがそれでも、元安だ。中国は全般的な改革の一環として人民元の為替制度をより柔軟にすると公約しているが、米政府はそのペースがあまりに遅すぎると毎日のように非難して来ている.それでもこの3年で、17%の元高にはなって来ている。

政府は生産過剰業種(鉄鋼、電解アルミ、自動車、コークス、 鉄合金、カーバイド等)を指定しているが、 その根拠となるデータは公開されてはいないが、この世界同時不況において、12圧19日のブログで、鉄鋼で言えば、2008年8月時点で、前年比69.5%の在庫増であり、化学原料および製品についても36%も前年比で増加している.といった。その際にも言ったが、中国人は日本人のように隣を見ながらものを作らない.だから、共倒れになるくらいにものを作ってしまう.だから、この大不況でも倒産するまで作るこことはやめない。

昨日のテーマのストライキとか暴動はたしかに不透明な隠蔽もあるだろう.年に10万件を超える暴動はそれを押さえるだけでもものすごいパワーだ.産経ニュース 2008年6月29日のニュースによると、中国・西南地方の貴州省甕安県で28日、15歳の女子中学生が乱暴のうえ殺害されたとみられる事件で、当局のあいまいな事件処理に怒った住民約1万人が、県政府庁舎や公安局を襲撃、数十台の警察車両が燃やされるなどした。集まった住民は数万人との情報もある。鎮圧に当たった当局側の発砲で1人が死亡したといい、中国国営新華社通信も29日、暴動の事実を伝えた。鎮圧で約150人が負傷、200人以上が拘束されたという。現地では、汚職や水質汚染に対する住民の不満も高まっており、こうした不満が暴動につながった可能性もある。

こういうのから、ラサのチベット騒動、土地の強制収用をめぐる農民暴動、反日暴動などきりがないが、その実態と解決策も不透明かも知れない.2005年に起こった大連の日系企業の一律賃上げも不透明だ.国が大きいだけの問題ではない.ともかくこうした暴動は時代を超えてきりがない.

環境汚染も見逃せない.緑の川とか青い川とかそれだけではない.4つ目の豚とか足が一杯のカエルとか奇形児がたくさんある.環境問題も以前話をしたが、こうした汚染が垂れ流しになっているのは以前の日本も同じだった.役人と企業の癒着だ.罰金も大したことない.ただ日本と違うのは国がでかく、かつ、工業化がものすごい勢いなので、そうした事をこのまま放置すると、中国だけの汚染のとどまっていない.勿論そこに住んでいる中国人も黙っていない.不透明な許認可が背景にはあってもそこに住んでいるからそのままで良いわけはない.メラニン入りのミルクを飲んだ中国人の乳幼児が4人に一人もいると言う事だ.そうなると誰も黙ってはいない。

このように一杯、不透明な政策運営に関連した項目を挙げて来た。そう言う国でも中国国内の市場目指して、多くの外国企業が進出をもくろんでいる。中国は様々な人種、所得階層、地域格差、地域ごとに異なる法規や制度、不透明な許認可、法規の運用。挙げればきりがない.こうした中で、中国市場はきわめて大きなビジネスチャンスだという意識は誰にでもある.一方で私が感心するのはこうしたぐちゃぐちゃとも思える環境のなかで、生き抜いて来ている中国人の生き方と価値観だ。これは日本人にはないものだ.

日本にはこうした不透明なものは数多くない.日本では澄んだ水にも魚が住んでいるが、中国では澄んだ水には魚は住まないと言う故事がある.こうした混沌とした社会に住んでいる人たちは混沌としているが故に政府の政策もあいまい不透明になって行くのであろうか.日本には清濁あわせ飲むと言う言葉もあるが、こうした中国の実態を見て、この国の経済が崩壊するのではないかとか危険が多すぎるとか言う人がいっぱいいる。こうした事は今に始まった事ではないと言う事だ.中国人のこうした価値観は変えられないし、これからも継続する.過去もそうだった.だから崩壊しようがないと言う事だ.そうした彼らの動きと考え方をわれわれは理解しようと努力したい。そうしなければ、彼らの将来は我々と一致点を見いだすことはできない.我々の将来は彼らと共有して行かなければ、我々の繁栄は維持出来ない.

明日は「中央・地方の不統一性」何を話すか未だ決めていない.これもやっかいだな。

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海野 恵一
1948年1月14日生

学歴:東京大学経済学部卒業

スウィングバイ株式会社
代表取締役社長

アクセンチュア株式会社代表取締役(2001-2002)
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海野塾のイベントはFacebookのTeamSwingbyを参照ください。 またスウィングバイは以下のところに引っ越しました。 スウィングバイ株式会社 〒108-0023 東京都港区芝浦4丁目2−22東京ベイビュウ803号 Tel: 080-9558-4352 Fax: 03-3452-6690 E-mail: clyde.unno@swingby.jp Facebook: https://www.facebook.com/clyde.unno 海野塾: https://www.facebook.com TeamSwingby
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