2008年12月22日

「賃金水準の上昇」

昨日は駐車場に止めてあったバイクからガソリンが漏れている事がわかって大変だった.結局、息子のビッグスクーターとかほかのバイクにガソリンを移して、漏れているところに布を入れて、シートをかぶせて、駐車所の隅に持って行って、今日、修理することになった.ともかく、ガソリンなので、近くで、タバコでも吸ったら爆発してしまう.あわやというところだった。さて、今日は「賃金水準の上昇」だ。

賃金の上昇で一番記憶にあるのは2005年の大連開発区で起こった日系企業に対する労使紛争だ.誰が首謀者かは結局不明のままで、一律100元賃金が引き上げられた.当時の東芝の香椎さんが日本商工会の会長だったが、彼も全くこの源泉がどこだかわからなかった.大連市政府も全くわからなかった.翌年の7月には最低の賃金が500元だったが、650元に3割も引き上げられた.2007年末にさらにアップして700元になったが、毎年こう言う感じで、あがって行って来ている.

実質経済成長率が毎年10%だから、大体同じレベルであがっている.ただ、今まで言って来たように都市部では実質その3倍の成長率があるから、都市部の賃金の上昇はGDPの成長率以上になる事は間違いない.ただ、中国は国土がでかいので、都市部と地方の賃金格差は10倍はある.勿論所得格差も同じだ.また、同じ都市部でもスキルによって、10倍以上の格差がある.その上こうして、毎年、最低賃金がどんどん上がる.だから、今誰がいくらなのかきちんと把握する事は大変な事だ.賃金がどんどん上がっている事は事実だが、どう上がっているかを正確に把握する事はほとんど不可能に近い.

さらに、昨年は大連の不動産が2倍に暴騰した.これは今まで、大連の不動産があがっていなかったからだ.元はいままで、購買力平価では現在の半値だと言って来たが、そのこともあって、毎年、元高になって来ている.2006年は3.2%の元高、2007年は6.9%で、2005年の1ドル8.2元から現在は6.8元まで、元高になって来ている.しかしながら、2005年に世界銀行が試算した購買力平価によれば元は1ドルあたり3.4元である。このように毎年輸出コストが大幅に上昇している.

それと今年は新しく「労働契約法」が実施され、福利厚生を充実せざるを得なくなって来ている.日系企業では未だ顕著な動きはないが、2007年1年間で、広東省で、香港系と台湾系の靴生産企業約1000社が閉鎖され、その約半分は内陸地域に移転し、約25%はベトナムなどに移転した.(富士通総研 2008年4月15日)ある大手の大連の労働集約型の日系企業のトップは今の賃金上昇ではあと3年は持たないと言っていた.そこの工場は数千人の工員がいる.言ったどうやって、閉鎖するんだろうか.韓国企業のように日本企業は「夜逃げ」はしない.中国は撤退の賠償が高い.

賃金の相場そのものについては今まで何度か述べて来たのでここでは詳細に言及しないが、今の中国で圧倒的に不足しているのはスキルを持った人材だ.だから、コンサルタントとかエンジニア、ブリッジSE、経営者のようなスキルを持った人材は平均的な賃金の10倍以上になる.たとえば、大連で言えば一般社員の年収が4万元ぐらいだが、トップの日本語が堪能なコンサルタントであれば、40万元はとっている.経営者のレベルになれば勿論それ以上である.「エーそんなに払うのか.」と驚く経営者がいるが、5年前とは全く違うし、もはや中国は「低開発国」とか「発展途上国」ばかリではないと言う事だ.

日本人の感覚であれば、2006年の厚生労働省の調べでは社員の平均給与が男は406万円、女が268万円で、東京都がこれより2割高い.男女平均すると337万円。東京都が413万円になる。日本の大手の上場企業のトップでも年収が5000万円ぐらいだから、そう言う意味では日本と中国も大差ないと思うかも知れないが、そうではない.中国の方が日本と違いトップになるのは30代だ.だから、日本より、20年は早い.勿論、中国のトップの給与はばらつきがあってよくわからない.国営と私営とは桁が違ってくるし、欧米系の企業では欧米並みで、また桁が違う.

何でもあり見たいなところあがる.実はこの中国の平均給与は2008年版中国統計年鑑」より、ジェトロ大連作成したものを先週土曜日に転載したが、正直言って、しょっちゅう賃金が改定されるので、正確には今いくらだかわからない.我が社の社員も日本人が採用した人と中国人が採用した人との開きもあって、今いくらが妥当かもわからない.はっきり言える事は中国が低コストの生産基地ではもはやないと言う事ははっきり言えそうだ.

以前のような低開発国の労働者はだんだん少なくなってくる.だから、労働集約的な生産は今後難しくなってくる.勿論、中国の内陸部は「低開発国」だから、当面はそうした内陸部への移行も十分考えられる.先ほど言ったベトナムなども候補だ.これからの中国は「先進国」の占める比重がだんだん顕著になって来ている。大学生があっという間に2700万人もいる.こうした人材をさらに育成して、高度なビジネスを行う事が可能となって来ている.それが我が社の行っているBPOだ。

ただ、ここで、人材の育成については日本企業のように30年で経営者を目指すような教育の仕方は中国ではあわないようだ.10年で経営者にするための人材育成プログラムを考えなければならない.こうしたプログラムはアクセンチュアのような欧米企業は持っているが日本企業は持っていない.賃金の上昇に見合った育成プログラムを日本企業は考えて行く必要がある.

もう一つ面白い考えがある.2002年に国連貿易開発会議が作成した資料だが、労働生産性を割り引いた単位労働コストと言う考え方だ.中国に賃金水準は米国の2.1%しかないが、中国の労働生産性も悪いと言う。中国は米国のわずか2.7%だというのだ。すなわち、中国はインフラ、法律制度、システム、商慣習において労働生産性が悪いと言う事だ.そうなるとこの労働生産性で賃金水準を割り引くと79.6%になると言う事だ.こうした数字はそのまま現実と言う事ではない.購買力平価だけ見ても倍違うから、まだまだ、中国で作った方が安い。

ただ、大連桑扶蘭時装有限公司 董事長の鄒 積麗女史が言っていた言葉が面白い.彼女のところで作ったブラジャーが日本の通信販売で、460円で売っているが、同じものを中国で売ろうとすると1350円かかると言うのだ.返品、物流コスト、管理コストがかかるので、3倍くらいになってしまうと言っていた.日本はそうしたコストがほとんど製品に按分しない程かからない.日本の中はきわめて効率が良いのである.

ここで何か変だなあと思うかも知れないが、日本の中国での製造は日本からの設備をそのまま持って来て、工場のレイアウトも日本のままだ.TPMも5Sも日本のまま移植して来たから、労働集約型であれば人件費と土地代だけは安くなった.それをそのまま日本に持って行くのであれば、コスト削減が出来る.自分の企業が中国でものを売ろうとすれば、先ほどの鄒 積麗女史が言うようなことになる.未だそうした事は日本の企業は大都市の上海とか北京ぐらいでしか行っていないので、コストがかかると言う事は未だない.

勿論、現地企業の販売を委託することもできるが、利幅は大きく減少してしまう.日本企業がこれから中国で販売して行く上での大きな課題である.鄒 積麗女史は最近、中国の中間層をターゲットとした小売りビジネスを展開しだした.この2年で、100店舗を展開するそうだ.すでにある600店舗とは別のブランドを投入するそうである.こうした企業が今中国では数多く出て来ている.中国全体の生活水準があがって来ているからだ.日本企業にとっては今後のチャレンンジだが、彼女は普通のビジネス展開ぐらいにしか考えていない.

明日は「労務問題(ストライキ、労働組合問題など)」だ。ストライキについて話をしよう.

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海野 恵一
1948年1月14日生

学歴:東京大学経済学部卒業

スウィングバイ株式会社
代表取締役社長

アクセンチュア株式会社代表取締役(2001-2002)
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海野塾のイベントはFacebookのTeamSwingbyを参照ください。 またスウィングバイは以下のところに引っ越しました。 スウィングバイ株式会社 〒108-0023 東京都港区芝浦4丁目2−22東京ベイビュウ803号 Tel: 080-9558-4352 Fax: 03-3452-6690 E-mail: clyde.unno@swingby.jp Facebook: https://www.facebook.com/clyde.unno 海野塾: https://www.facebook.com TeamSwingby
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