2009年01月31日

「不公正であると指摘される裁判制度」

昨年の12月27日に「経済法制度の未整備」、28日に「恣意的な法制度の運用」をかいており、今回はその続きになる.前回は死刑の数がやたら多いこととか、地方政府と企業の癒着があるため土地の使用権で、不当な判決が出た例を紹介した.東芝のノートブックの事件は反日がからんでいる.ヤマハの場合には反日ではないが、良くある模造品だ。今では地元のバイクは立派な産業になってしまった.クレヨンしんちゃんの商標権の敗訴の問題も以前、知財のところで、取り上げた.

また、高速道路の騒音の話もした.騒音公害で、これは国を相手に北京の市民が勝訴して、損害賠償を勝ち取った.この裁判は2002年の事だった.環境に対する意識だけではなく、裁判そのものは基本的には公正だ.たしかに、いくつかの点では他の世界とは異なるところがある.

その第一点は「人治」国家だと言う事だ.交通事故は人身事故の場合、当て逃げをしてしまう率は相当高いと思う.統計はないのでわからないが。現場に居合わせた人たちは人身だけでなく、車同士でも、どっちが悪いと判断してくれる.たくさんの人が集まるから、警察が来る前に一般大衆が評価してくれる.交通違反も日本ように、収賄しようとしたら逮捕されるが、中国ではそう言うことはない.値引きも出来る.これは中国の国民性だ.こうしたところは中南米と一緒だ.

第2点は地方主義だ.これが裁判の公正さを欠く一番の根源と言える.収賄、利権、人脈、汚職は地方の特権であり、歴史そのもので、決してなくならない.地元企業と外資企業との裁判では外資が負けてしまう.だから、よっぽど、そうした地元の「信用」のネットワークに入って行かないと勝てない.「真面目」「正直」に生きて行こうと思うなら、日本からでない方が良い.

第3点は反日だ.交通事故だけでなく、あらゆる訴訟も同様に日本人と言うだけで、損害賠償とか慰謝料の桁が増えてしまう.だから、私は上海の総経理の車には絶対乗らない.私が日本人だと言うだけで、人身事故をおこしてしまうと、100万円ですむところが一億円になってしまう.中国で、日本人で車を運転している人がいるが、いくら保険に入っていても、理解出来ない.

地方政府の地元優先主義については今まで、いろいろな場でさんざん述べて来たが、これが一番裁判の不公正をおこしている原因だ.最終的には北京の最高裁があるので、そこがおかしいと言ってくれる可能性はある.また、反日の場合で、日本製の携帯電話に国別コードの中に「ROC」(中華民国)とあったのが、大問題になった事がある。

このケースは2001年に中央政府から1年間の販売停止の行政処分を受けた.そうなると、現地法人は倒産してしまう.ところが中国のメーカーも同様に「ROC」となっている事がわかって、こうした処分が取り消しになったことがある.これは正しく反日の例だ.もともと中国のメーカーであればこう言うことはない.

裁判まで行かなかったが、日本企業が日系のデパートでレストランを出店していて、任せた中国人にすべてを持って行かれたケースがある.こう言う事例は多い.私の友人が経営していたのだが、雇った総経理に株を持たせて、3年位ほっておいた.利益がでないので、おかしいと調査をしたら、別の店まで出していたと言う事がわかった.

相手の中国人の素性はきちんとした人だが、結局、新規の店の権利をあげる事で、和解出来た.今までの利益に対する請求は放棄した.まかしきってしまうと言う日本人の「信用」に対する考えは中国人には通用しない.ほっておく方が中国では悪い。このときの相手の和解条件は日本人ではできないし、また、先方との交渉も日本人ではできない.

また、地方主義ではないケースで、裁判官との癒着のケースもあった.不動産売買で、依頼した不動産の売買を解約しようとしたら、仲介に入った不動産業者から法外な違約料を請求された.それを調解(調停機関)に申し立てをして解決しようとしたが、その審判が仲買業者に味方をした結果となった.日本企業はその和解合意書のプロセスにおいて、いい加減な対応をしてしまったと言う経緯もある.合意出来ない場合には日本と同様に人民法院(高等裁判所)に持って行けば良いのであるが、放置していたために、問題が大きくなってしまった.

1985年までは国有企業は銀行から資金の供給をいわば自由に受けていたが、その後、国有銀行から優先的に資金提供は受けて来ている.そう言う地方での癒着関係が嵩じて、不正が起こるケースもある.2002年に交通銀行錦州支店の公文書偽造で、裁判官も収賄された事件だ.(中国での事業におけるリーガル・リスク・マネージメントに関する調査報告書 国際協力銀行 2005年1月)

国有銀行のコーポレートガバナンスがで来ていないと言う事だ.最近は上場して来ている企業の数も増えてきたから、そうしたいい加減な経営は減って来てはいるが、上場企業自体がグループの子会社であるケースも多く、親会社との利益配分の実態が不明瞭だ.そこに地域が絡んでくると収賄が起こるが、こうした事例は程度の差こそあれ、数限りがない.

労使関係に関する紛争は日本と同様に、労働者保護の立場が強く、法律自体が経営者にとっては不公正と言えるかも知れない.社員が今の仕事に不適任であると言う証拠があれば、解雇日の30日前に通告すれば労働契約は解除出来る.言い方を変えれば、雇用契約とか就業規則が曖昧だと規則に違反したかどうか、処罰規定が明確かどうかに問題の視点が移ってしまう.

また、解雇も会社の一方的な解雇通知は労働者保護の視点から認められない.しかしながら、雇主は会社の状況と社員の社内における行動を鑑みて即時解雇を言い渡し、かつ、一ヶ月分の給与を支払って、止めてもらうのが通常だ.その社員が労働争議仲裁委員会に申し立てると雇用契約解除から仲裁が終わるまでの期間の給与を支払うように命じるのが一般的な事例のようだ.こうした事例は日本と全く同じだ.きっと日本を見本として法律を作って来たのだろうか。

こうした事は日本と同じだが、日本の場合には失業保険があるから、本来そうした金額は相殺するべきだが、現行法は日本も中国も労働者の立場に立っており、企業の存続を保護していない.今回のように、未曾有の不景気に場合には仲裁金額を支払ったら、企業の方が倒産してしまうケースが多々出そうだ.

倒産しないために社員を解雇するのであるが、解雇した社員にこうした労働争議費用も含めて支払っていては企業が倒産してしまう。何のために残った社員を守ろうとしたのかわからなくなってしまう。これは正社員の話だが、中国にも派遣契約はある.派遣合意書がきちんとしていれば労働争議仲裁委員会は法律に沿った判断を行うのは当然である.

「国際経済法にかかわる国際条約にもほとんど加入している。対外経済貿易関連法の体系があり、WTO加盟により法改正や制定が行われている。この法制度、立法状況を見ると、先進資本主義国の整備状況とほぼ同様である。外国企業との貿易、合弁事業などは中国特有の法が形成されている。

合弁事業に関しても、会社の設立手続、資本、機関、計算、整理、解散・継続・清算、分割の問題について独自の法体系があり、日本と大きく異なり、さらに頻繁な改正がある。」(中国での事業におけるリーガル・リスク・マネージメントに関する調査報告書 国際協力銀行 2005年1月)

よく中国は法律が未整備だから、と言う事は良く聞くが、確かに、税務諸則に関して言えば、細則はほとんどなく、地方税務署の判断に任せているところが多い.地方と聞いただけで、人為的な恣意性が入ってきてしまう。また、中央政府も日本企業だけをターゲットとした徴税も行って来ている.

しかし、本日の課題の裁判に関連した法律は完備しているようだ.問題はその適用の仕方とか考え方が違う.中国人の文化、性格、風習が日本人とは違う。年間10万件の暴動は日本では考えられない.地方政府が不公正な判決をしても、不公正な抑圧をしても、農民はおとなしくしていない.『泣く子と地頭には勝てぬ』と言う日本のことわざは中国にはない.先ほどの報告書から以下引用する.

「日系企業から法制度に関連して指摘される問題点は、法律の条文内容ではなくその全国統一的な判断基準の曖昧さ、および適用基準の不一致である。このような問題が発現する理由として以下のことが考えられる.

1 国内産業保護(国有企業経営の苦境)
2 縦割り行政
3 政策の周知徹底の不備
4 地方保護主義」

日本人の場合にはこれに加えて、日本人の特殊性を考えなければならない.中国人に比べて、日本人は国際的だと考えている人がほとんどだが、それは全く逆で、中国人が国際的で、日本人は特殊な民族だと言うことだ.先ほどの不動産の調解でもそうだが「あうん」を相方に期待してしまう.「まさかそう言うことはないだろう。 」という前提で行動してしまう.その「まさか」が中国では頻繁に起こるのである.

先ほどの労働仲裁の事件で、労働法が労働者に有利だと言う事ばかりではない.日本企業が負けてしまう理由がある.日本企業は仕事の仕方が以心伝心だから、仕事の範囲も責任も明確でないばかりでなく、評価体制も曖昧だ.そのうえ、日本人はコミュニケーションが粗雑で、中国人のように交渉能力がない.だから、中国人に一方的にやられてしまう.

これは労働争議とか労働仲裁だけでなく、対外的な問題についてもすべからく同じ事が言える.反日問題は確かにある.しかしながら、もっと根が深く、大きな課題は日本人のグローバル感覚の欠如だ。こんなことを言うとほとんどの人は反目するが、そういうことすら、認識出来ない程、日本人はグローバル音痴になって来ていると言う事だ.

東アジア金融危機以来、日本が東アジアを主導する「雁型構造」の分業システムは既に崩れてしまって久しい。BRICSの経済発展にかっては日本が先頭を行っていたのだが、今はその面影すらない.世界第2位のGDPという事実だけがまだあるが、この事実は成長を伴っていない.還暦ニッポンの斜陽国だ。

中国に滞在する日本人数は外務省の調査(2004年10月1日現在)によれば、中国(香港を含む)における長期滞在者は9万8172人で、永住者1007人を合わせた滞在総数は9万9179人、ざっと10万人である。在外日本人の10分の一になる.JETROの人たちのように中国人、中国の商慣習、風土、文化を吸収しようとしている人たちはいったい何人いるのだろうか.

中国から学べるものは何だろうかと言う視線を持った日本人がいったい何人なるのだろうか.中国はもはや発展途上国ではないと思っている人は何人いるのだろうか.この裁判も一緒だ.かれらは先進国だ.しかも地方人脈がそこに歴史の重さを持ってのしかかっている国だ。

不公正は後進国であるとか、発展途上国とかではない.100年経っても、今まで述べて来たような不公正は決してなくならない.昨日の「地政学10か条」をもう一度読んでほしい.世界の人たちの感覚だ.こうした感覚は日本人は持っていない.

     自国が利用されているのではないかと疑う.
     油断しない。
     「友好」を真に受けない.
     徹底的に人が悪いという考えに立つ.

くどいが、こうした感覚は日本人は持っていない.だから、さきほど日本人は世界でも特殊だと言った.平たく言えばお人好しだ.また、地政学では「君主論の著者マキャベリも『隣国を援助する国は滅びる』と言っている。」とも書いた.こうした日本人のファンダメンタルな部分が悪いと言ってるのではない.世界から良い獲物だと見られていると言う事だ.

この裁判も同じだ.同じ土俵に立たなければ、勝つことはできない.確かに中国の裁判は不公正なところもある.その不公正な部分がなぜ不公正なのかを分析してみる必要がある。中国の問題だけでなく、日本人の問題もあると言う事だ.日本人のグローバル化はやっぱりここでも課題だ.

明日は「対日本抗議行動」だが、魚釣島、東シナ海のガス田、李登輝の訪日をあげて行くと、逆の場合も多いことに気がついた.対中抗議行動も多いが、どう違うんだろうか.

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海野 恵一
1948年1月14日生

学歴:東京大学経済学部卒業

スウィングバイ株式会社
代表取締役社長

アクセンチュア株式会社代表取締役(2001-2002)
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海野塾のイベントはFacebookのTeamSwingbyを参照ください。 またスウィングバイは以下のところに引っ越しました。 スウィングバイ株式会社 〒108-0023 東京都港区芝浦4丁目2−22東京ベイビュウ803号 Tel: 080-9558-4352 Fax: 03-3452-6690 E-mail: clyde.unno@swingby.jp Facebook: https://www.facebook.com/clyde.unno 海野塾: https://www.facebook.com TeamSwingby
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