2009年02月27日

「4年かかった王子製紙」

以下の「お知らせ」が王子製紙が4年もかかった許認可の経緯で、当初の予定では2007年には稼働するはずであったが、それが延びて、下記のようになった。それでも、2009年には稼働出来ず、2010年となっている.これこそ、昨日話をした「行政手続きの不透明性」そのもの良いの例だ.

地方政府の思惑と中央政府とのずれがここまで時間を要したことになる.その背後にあるものを今日は説明しよう.これは日本人の最も不得手とする領域だ.しかしながら、中国でビジネスをするためには避けて通れない.良い勉強をしたでは済まされない事が多い.その教訓を今日は見て行こう.まずは以下の「お知らせ」からだ。

「平成18年7月31日
各位
会社名 王子製紙株式会社
代表者名 代表取締役社長 篠田 和久
(コード番号3861 東証・大証(市場第一部))
問合せ先 常務執行役員
中国事業推進本部副本部長 渡辺 正
(TEL.03-5550-2801)

南通プロジェクトの中国政府からの認可取得に関するお知らせ

王子製紙株式会社(以下「王子製紙」)は、中国江蘇省南通市に建設を計画している紙パルプ一貫工場(以下「南通プロジェクト」)について、7月30日に、国家発展改革委員会批准文書(国務院批准)を受領しましたので、お知らせします。
王子製紙は、今回の認可取得により、中国華東地区に確固たる拠点を確保することとなり、「本籍日本のアジア国籍企業」として、大きな一歩を踏み出すこととなりました。
今後、最新鋭の設備と日本で培ってきた世界最高水準の生産管理技術および環境対応技術を導入し、中国の「紙パ産業の発展」ならびに「環境問題の改善」に貢献すると共に、中国市場へ高品質の印刷用紙を安定的に供給することにより中国の「文化・経済の発展」にも貢献して参りたいと考えております。



● 申請の経緯
・ 2004年9月: 「南通プロジェクト」の中央政府への認可申請作業を開始
・ 2005年4月: 国家環境保護総局から「南通プロジェクト」の環境アセスメントの認可を取得
・ 2005年6月: 国家発展改革委員会(江蘇省発展改革委員会経由)に対し「南通プロジェクト」の認可を申請
・ 2006年5月: 国家発展改革委員会の審査が終了し、国務院へ上程
・ 2006年7月: 国務院より「南通プロジェクト」の認可を取得

● 取得した認可の内容
・ 認可された設備の内容:
・高級紙生産設備 2系列 年産能力:80万トン(40万トン×2系列)
・クラフトパルプ(KP)自製設備 1系列 年産能力:70万トン
・付帯設備 1式
・ 生産品種 : 高級印刷用紙(主として塗工紙)
・ 投 資 額 : 約19億US$
・ 設立する会社名 : 江蘇王子制紙有限公司(仮称)
・ 事業主体 : 中国企業との合弁(合弁は中国の法令による) [王子製紙 90%、中方企業 10%]

● 今後の予定
・ 2006年末 : 江蘇王子制紙有限公司の設立
● 主要設備の発注
・ 2007年初 : 土地造成工事の開始
・ 2009年末 : 1号抄紙機、1号コーター稼動開始 [年産40万トンの予定]

※ プロジェクトの詳細な、かつ具体的な実施計画は、さらに検討を加え、正式な機関決定を経た上で公表します。
※ 今回国務院より認可を受けたことにより、王子製紙は本プロジェクトを、江蘇省レベルで認可を受けていたプロジェクトに替えて、上記内容に基づき実施していきます。
王子製紙はプロジェクト全体として年産120万トンを計画しており、残りの年産40万トンについては、引き続き、認可を取得できるよう中央政府に対して申請を実施していく予定です。

以上 」

この経緯において、途中の状況が一切わからないと言う全くの不透明な経緯を経て承認された.外資系企業としては最大規模の投資であるのに、中国政府内部で、なぜこれだけもめたのかその理由がわからない.我々がその理由を想像するしかない.今日の課題はその理由がどうなのかよりも、こうした中国政府の対応の問題をどう対処したらいいのかと言う視点で、検討して行きたい.これこそ日本人がグローバルの視点を持てと私が言って来た原点がある.

このプロジェクトの許認可へのアプローチは江蘇省南通市からスタートしている.「南通市共産党委員会書記である羅一民(らいちみん)氏は、今回のプロジェクトは投資額、工場規模ともに最大で、世界でも最先進技術の導入とあり、同社を全面的にバックアップしていくと発表。また環境面でも十分な配慮を行っていく構えという。」(サーチナ 2003/06/11)

「王子製紙は2001年度策定の中長期経営計画において、「本籍日本のアジア国籍企業」を目指し、5年後を目処に年産100万トンの生産拠点をアジア地域に設置する構想を発表している。今回同社はまず約600億円を投資し、2006年末の稼動を目処に、年産60万トン規模の塗工紙生産設備を建設する。そして将来的には、年産120万トン規模の、上質紙・塗工紙を生産する紙パルプ一貫工場を建設する計画である。総投資額は約2000億円。」(サーチナ 2003/06/11)

この当時のニュースを見ると中国政府の政策に対する対応が全く理解されていなかった状況がよくわかる.2006年には稼働するつもりであったようだ.実際にはそれから4年も遅れてしまった.当初は南通市から交渉が始まった事がこの記事でわかる.この南通市から始まって、江蘇省、中央政府へと交渉のプロセスが変化して行った.勿論それぞれの政府には許認可出来る範囲があるので、それなりの対応はして来ているはずだ。

このプロジェクトは対中投資事業としては過去最大だから、南通市だけで事は進まないのは当然だが、中国は中央、省、市がそれぞれも思惑で動くと言う国だ.このような例としては今まで取り上げてきた餃子のメタミドボスがある。中央政府、河北省、石家庄市、天洋食品が関係しているが、それぞれの思惑と利権が部門にまたがり、日本との交渉には大変な調整が必要だった.

また、アセンダスが1994年に蘇州に工業園区を作った時にも蘇州市と中央政府との関係に苦労したはなしもあった.投資する側としてはそこの経済の活性化に繋がるから、問題ないと思ってしまう.要するに利害が誰でも一致すると誤解してしまう.製紙工場の場合には環境部はそうは思わない.環境汚染があるからだ.メタミドボスの場合には食品安全の衛生部と経済発展の他の関連部門との思惑は違ってくる.そこに国有企業とのつながりが個人的にあるので、ますます複雑になる.餃子の場合にはさらに別の鉄鋼関連の国有企業に横流しまで発生している.

以前大昭和の社長の齊藤公紀さんから聞いたことがあるが、日本の紙の消費量は一人当たり240kgで、中国はその10分の1の26kgだそうだ.日本のマーケットに比較して、中国の潜在市場が計り知れない事がその規模からわかる.2000年の情報では日本が年間3200万トンで、中国が3500万トンぐらいだ.すなわち、市場の潜在力は10倍あると言う事だ.これだけの市場があると言う事は日本企業だけに利益を出させるわけにはいかない.

「「日本でも規則は変わるが、まず話し合いがあってのことだ」。王子製紙の篠田和久社長は今回の経験について、こう語る。「中国では、それが予告なしに起こる。もっと透明性が必要だ」」(ウィキペディア)問題はさらに将来にわたってもある.実は中国でもまず話し合いがある.なぜ、日本企業のは無いのであろうか.そこを日本人は理解していない.

この中国は多国籍国家と同じだと言って来た.王子製紙がこの国で、120万トンもの工場を稼働させて、ビジネスをして行くためには中央政府、江蘇省、南通市のそれぞれにおいて、また、競合他社とにおいて、家族閥、地域閥の中に入らなければ日本人的な「信用」のビジネスは出来ない.それが無いと、どこかで、古紙、木材チップの輸入関税が2倍3倍に跳ね上がってしまう可能性がある.「事前にはなしが無い」のはそのグループに入っていないからだ.

中国のこうした許認可が不透明なのは中央政府が国の環境を守る、国の産業を守る一方で、地域の経済振興を計ると言う地方政府の思惑との葛藤があるからだ.地方政府にしてみれば、これだけの規模の会社が進出してくれば、雇用・税収が伸び、他企業誘致に弾みがつく。中国にはインドネシア華人が経営するAPPがある。この会社はインドネシアだが、華人が経営しているから、中国人脈がある。こうした企業とも中国国内で、今後対応して行くことになる.こうした関係があって、許認可が紆余曲折したのだろうが、そこに王子製紙が入っていなかったのはこうした「閥」のグループの一員でなかったからだ.ということはこれからも同じような「不透明」なことが起こると言う事だ.

中国でのビジネスは欧米とは違う.工場を造って販売企業を興して、マーケットを展開するだけではビジネスが出来ない.さきほど言った「閥」をからめた「信用」のネットがないとどこかで嵌められてしまう可能性が大きい.日本人の「真面目」「正直」『勤勉」『実直」『嘘つかない」価値観は中国では通用しない.「信用」のネットもすべての販売領域をカバーすることはできない.

南通市も市長が変われば、最初からやり直さなければならない.輸入税関も一緒だ.私が言っているのは賄賂とか収賄の事ではない.「閥」による人脈だ.中国はこれが無ければ多言語、多民族の世界で、自分を守ることができない.そこに入るためには彼らの仲間として認知されなければならない.アジアでのビジネスも同様だ.これがグローバルなビジネスだ.

一民族同士のビジネスとどう違うかはまず始めに相手を信用するかしないかだ.中国人は相手を信用しない.信用する仲間は限定している.信用しない相手とも取引はする.取引に不利にならないように「閥」を利用する.輸入税関、競争相手、販売先すべてにおいて、このことを考えなければならない.こうした事は日本人には出来ない.だが、こうしなければならない事を日本人は理解する必要がある.「友好」はあてにならない。損得だけで動かなければならない.日本人は直ぐに「友好」に頼るが、それは意味の無い事だ.

グローバルな考えと言う事はこう言う事だ.英語、中国語が話せる事ではない.日本人は一民族だからビジネスが整斉として、イカサマ、虚偽がない。日本の外はそう言う事は日常茶飯事だ.そこをどうこなして行くかがグローバルな考えを持たなければ出来ないと言う事だ.グローバルと言うと聞こえは良いが、きれいないものではない.それを日本人は知らない。しかし、これからは知らなければならない.

王子製紙はこうした苦労の末に、工場の建設に着手出来た.ところが、今私が言っている事はこれからももっと大きな障害がでてくると言う事だ.それは利益を出すための障害だ.欧米企業が日本企業の平均よりも10%も多い利益を中国で出しているのが現実だ.なぜ出しているのかの分析をしなければならない.彼らは目に見えない技術、サービスにも金をとっているからだ.

税務署との対応も言いなりになっていないからだ.これらすべては交渉とコミュニケーションと人脈だ.それが無ければ、今までのように言いなりになるしか無いし、事前の相手方の情報も手に入れることはできない.日本人から見ればすべてが「不透明」と言うことになる.中国人から見れば、そういうことは言い訳に過ぎない.「閥」を持っていれば情報は入る.情報が入らなければ、ビジネスは中国では出来ない.中国は清濁あわせ飲む「灰色」の国だ。くどいようだが、日本人の言う「信用」とか「信頼」はない。

明日は「反日感情による暴動や不買運動」だが、これもさんざん言って来たな.改めて議論しよう.

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海野 恵一
1948年1月14日生

学歴:東京大学経済学部卒業

スウィングバイ株式会社
代表取締役社長

アクセンチュア株式会社代表取締役(2001-2002)
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海野塾のイベントはFacebookのTeamSwingbyを参照ください。 またスウィングバイは以下のところに引っ越しました。 スウィングバイ株式会社 〒108-0023 東京都港区芝浦4丁目2−22東京ベイビュウ803号 Tel: 080-9558-4352 Fax: 03-3452-6690 E-mail: clyde.unno@swingby.jp Facebook: https://www.facebook.com/clyde.unno 海野塾: https://www.facebook.com TeamSwingby
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