2009年05月28日

Free Trade7

昨日ブログを読まれている方から、私がいよいよ経済学者になるのかと聞かれたが、とんでもない。このシリーズはグローバリゼーションの一環で、日本をどうグローバルにするかの一構成要素だ。あくまでも、先日話をしたBPOを手段として、日本に中国人の「出島」を作る。そこから、日本人の仕事の仕方を変えていく。「あうん」から「Give and take」の仕事スタイルへ。そしてそれが30%の生産性を向上するきっかけになる。中国に持っていくだけで、仕事の生産性が3割あがる。信じられないかもしれないが、日本人はそれほど仕事の効率が悪いと言うことだ。勿論今はコスト差があるから、中国では日本のコストの半分だ。そういうことで、ここ一連のグローバリゼーションの話をしている。

昨日の続きの自由貿易により市場での財の取引が経済にもたらす利益、すなわち、専門用語で言えば、「厚生水準」の話の続きをしよう。この部分ではきわめて単純化したモデルの話しかしないので、これぐらいまではぜひ理解してほしい。昨日私が図の解説をしているので、以下の文章は理解しやすいと思う。一部、英語の本文の間違いもあったので、指摘しておく。

この図はある架空の商品に輸入関税をかけた場合の影響を分析している。関税をかける前の世界市場の商品の価格は国内市場の価格と同じであるが、PにWorldをつけたものである。国内価格に関税をかけたものをPにTariffをつけてある。価格がより高く設定されたので、国内生産量QはS1からS2へ増加する。国内消費量QはC1からC2へ減少する。

このことは社会の繁栄(専門用語で言えば、社会的余剰)にたいして、3つの影響を与える。消費者は暮らしが悪くなる。と言うのは消費者余剰(緑の部分)が減るからである。生産者は暮らしがよくなる。と言うのは生産者余剰(黄色の部分)が増えるからである。政府もまた税収入(青い部分)を得ることができる。しかしながら、消費者の損失は生産者と政府が得たものより大きい。この社会損失の大きさは2つのピンクの三角形で示している。この部分を専門用語で、「死重損失」もしくは「死加重」と呼んでいる。この関税を取り除いて、自由貿易にすれば、社会が純益を得ることができる。

此の関税分析と殆ど同様であるが、純生産国の見通しでも同様の結果を得る。その国家の見通しでは輸出関税によって、生産業者の暮らしが悪くなり、消費者の暮らしがよくなる。しかしながら、生産者の純損は消費者の利益よりも大きい。此の場合には税収入がない。此の国家は関税を取っていない。

ここの説明は間違っている。関税を取っていないのであれば、輸出税を取って、輸出価格を上げていることになるが、そうすれば、輸入税と同じように、税収入が入ってくる。税収入がないと言うのであれば、輸出関税ではなくて、輸出自主規制だ。そうした方法で、輸出価格を上げるのであれば、政府に税収入は入らない。その価格が上がった部分は税収入ではなくて、生産者が安く仕入れて高く売るので、輸出プレミアムとなる。ちょっとわかりにくいかもしれないが、図の青い部分に相当する。此の図を上下逆転したものがここで言うところの輸出自主規制であり、輸出関税をかけたものが、ここでいうケースの輸出版である。上記の輸入税の部分だけでもきちんと理解していればここのところは良いと思う。

同様の分析で、輸出税、輸入自主規制、輸出自主規制すべては似たような結果を得ることができる。ある時には消費者の暮らしがよくなり、生産者の暮らしが悪くなる。また、逆もある。しかしながら、貿易の制限による賦課は社会の純損を招く。貿易制限における損失の方が貿易制限による利益より大きいからである。自由貿易は勝者と敗者を作るが、理論と経験則から、自由貿易によって勝ち得た量の方が負けた量より多いと言うことが言える。

貿易の迂回( trade diversion

主流派経済学(mainstream economic)の理論のよれば、グローバルな自由貿易は社会に純利益をもたらす。しかしながら、ある国に対しては自由貿易協定を選択的に適用し、他の国には関税をかけることは時として、貿易の不効率を生じ、それを貿易の迂回と呼んでいる。経済的には原価が最も安い生産業者の国によって商品が生産されるのが効率的である。しかし、いつもそうとは限らない。高いコストの生産者と自由貿易協定を結んでしまうと、低いコストの生産者は高い関税を払うことになる。低いコストの生産者を除外した、高いコストの生産者との自由貿易によって、貿易の迂回が起こり、経済的な純損を招くことになる。このことがなぜ多くの経済学者がこれほどにまで、グローバルな関税の削減にたいする交渉に重要性をおいているのかの理由である。例としてはドーハ・ラウンド( Doha Round)がある。

「ラウンド」とは、「多角的貿易交渉」と訳されることが多く、自由貿易主義を基本として、貿易についての世界ルールを各国が一堂に会していろんなことについて話し合い決定していくことをいう。

20 世紀まではGATT(貿易と関税に関する一般協定)を舞台に行われてきた。60年代の「ケネディ・ラウンド」では関税一括引き下げに成功、70年代の 「東京・ラウンド」では非関税障壁撤廃のルールができ、80年代後半から90年代前半の「ウルグアイ・ラウンド」では農業の例外なき関税化、つまり農産物 の輸入受け入れ原則をルール化した。

1995年にWTO(世界貿易機関)ができ、ラウンドの舞台はここにうつった。農業分野のさらなる自由化や、ウルグアイ・ラウンドで扱われたサービス貿易・知的所有権などの分野のルール整備を求めて、2001年ドーハ(カタール)で開催さ れた第4回WTO閣僚会議でドーハ・ラウンドの開始が決定された。

ちなみに正式名称は「ドーハ開発アジェンダ」。貿易を通じて途上国の経済開発をめざそうとすることがこのラウンドの大きな目的の1つになっている。
詳細についてはここがよく解説している。
http://allabout.co.jp/career/politicsabc/closeup/CU20071124A/
上記でいう貿易の迂回とはWTOからFTAへの動きのことであるとも言える。FTAが主体の地域的貿易が盛んになる可能性があるが、こうした危険をはらんでいる。

批判的な見方

自由貿易の利益に関して、理論とか経験調査の文献の中で、Sonali DeraniyagalaとBen Fineはこうした多くの研究には欠陥があると指摘している。自由貿易が経済の発展に与える利益の範囲がわからないと結論している。理論的な議論は大いに、特定の経験による仮説に依存しているが、それが真実であるかどうかわからない。経験値に関する文献では多くの研究がこうした関係が不明瞭だと指摘しているし、一連の経験値の報告書にあるデータとか計量経済学では肯定的な結果を示しているが、それを批判している。

ここで中断する。これから、岐阜に行かなければならない。






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海野 恵一
1948年1月14日生

学歴:東京大学経済学部卒業

スウィングバイ株式会社
代表取締役社長

アクセンチュア株式会社代表取締役(2001-2002)
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海野塾のイベントはFacebookのTeamSwingbyを参照ください。 またスウィングバイは以下のところに引っ越しました。 スウィングバイ株式会社 〒108-0023 東京都港区芝浦4丁目2−22東京ベイビュウ803号 Tel: 080-9558-4352 Fax: 03-3452-6690 E-mail: clyde.unno@swingby.jp Facebook: https://www.facebook.com/clyde.unno 海野塾: https://www.facebook.com TeamSwingby
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